渡辺順平のブログ。

渡辺順平が日々思うところを、気の向くままに。

アグリゲーター|5年後の主役

アグリゲーターを読んで 

「知られざる職種アグリゲーター 5年後主役になる働き方」という本を読んだ。

2013年に読んだビジネス書では1番面白かったかもしれない。皆さんはアグリゲーターという職種をご存知だろうか?

内容としては時代の環境変化に伴う個人のワークスタイルと企業マネジメントの変化について考察し、今後活躍する職種を「アグリゲーター」と名付けてその特徴とアグリゲーターを活かす組織マネジメントの在り方について論じている。良い本だったので備忘録もかねて要約&所感。

 

環境変化がもたらす個人の進化

IT革命により私たちの働き方が大きく変わった。

  • 組織の階層に関わらず情報の受発信が可能になった
  • 情報格差より情報リテラシー格差が大きくなった
  • 社内と社外の境界線が曖昧になり、いつでも誰とでもやり取りが可能になった

これらの変化は、私の世代(1980年代生まれ:コンピュータとともに育った初めての世代)には解りやすい。この十年で私たちは、スマートフォンを手にし、いつでもテキストメールやファイルをやりとりし、クラウドサービスでいつでも必要な情報にアクセスし、FacebookやLINEなどのSNSでつながり、社外のネットワークにいつでもアクセスできるようになっている。

また有用な情報はWebや組織の外に目を配る事で手にし、利活用するようになっている。逆に大量の情報の中で有用な情報にアクセスし活用するには情報リテラシーが必要になってくることも意味している。年末に実家で母を実験台にしてみたが、Googleは普段から利用しているが、Facebookについては、”流行しているもの”程度の理解に留まった。

 

個人の進化に対して出遅れた組織マネジメント

個人の進化の一方で組織はあまりにも変わっていないことに言及している。決まった商品の大量生産とそれを支える標準化が押し進められた工業社会の人材マネジメントがそのまま継続されている。

  • 9時から17時まで
  • 決まった席で
  • 与えられた仕事の範囲を
  • 与えられたやりかたで

知識労働層を対象としたこうした管理は制度疲労を起こしている。比較的静寂な事業環境下で活用してきた戦略の方法論が、猛スピードでダイナミックに変化する市場環境に対応できなくなってきている。ポジショニングがとれない。想定すらしない競合の出現などがそれだ。これにより知識層のワークを標準化できなくなってきている。(つまり決まった仕事をしているだけでは勝ち抜けなくなった)

 

企業は生き残りをかけて継続的なイノベーションを起こすために、その主体たる個人との付き合い方、向き合い方を根本から考え直す必要がきている。

企業はその機能を”個人を管理する主体”から”個人が成長するための器”へと変化させることを余儀なくされるだろう。さもなければ力のある個人は簡単に離れていってしまうだろう。力をもつ個人のネットワークが世界を動かす時代がやってくるのだ。

 

アグリゲーターが出てこないがここで登場する。本書では5年後に時代の主役として活躍する職種をアグリゲーターと名付け、その特徴を以下のように列挙している。

  1. 将来やってくる社会を具体的にイメージし、自分たちならどのように貢献できるかを考えてしまうしプランを書かずにはいられない。
  2. 既存事業の枠にとらわれず、その瞬間に最も適切と思われる事業モデル・アプローチを設計・実行する。
  3. 事業を成功させるために必要な能力を見定め、それを集めるネットワークを保有する
  4. 状況に応じて自分の古いスキルや経験を捨てることができる
  5. 強烈なビジョニング力を持つ
  6. アグリゲーターはプロフェッショナルの延長にあり、プロフェッショナルでないアグリゲーターは存在しない

 ※aggregate:短期間に社内外の多様な能力を厚め、掛け合わせて徹底的に差別化した商品サービスを市場に負けないスピードで作り上げるやりかた。

 

本書の後半では組織のマネジメント層向けにアグリゲーターを集め育て、有効に活用するための企業マネジメントの方法論について解説している。

 

ここまでざっと本の要点を書き出したがどうだろうか。所感として思うのは、アグリゲーターは確かに存在する。自分の周りにも。経営大学院の教授や講師の先生方はその典型に見える。自己のビジョンと専門性を有し、社会に新しい価値を提供すべくビジネスモデルを描く。社内外に有用なネットワーク(助け合える同志)をもち、コラボレーションする。またはそうした生き方を次世代に伝えようとしている。ビジョナリーで尊敬すべき人たちだ。

 

混迷の社会を生きる多くの知識ワーカーは、単なる金銭的な価値を超えて、働く意義、社会的な価値や貢献といった自己実現を求めているものだと思う。多くの人は目的意識のない馴れ合いの定例会議や、スピード感のない縦割り組織や無機質でくだらない目標達成プログラムにうんざりしている。心の奥底では、意義ある活動を通じて充実感や喜びを感じ、また同志とそれを分かち合いたいと思っている。

 

アグリゲーターはこうした知識ワーカーをつなげ、価値ある目的を達成していくネットワークのハブのような存在と言えるだろう。

 

個人が主役になる時代がくるのは多くの面において歓迎すべきことだが、社会や組織に起こる大きな変化はすぐ明日にやってくるということはない。その変化は緩やかに(しかし確実に)やってくる。

 

時代の変化が訪れるまでの間、特に古典的な日本の組織でアグリゲーター的な働き方をすることは孤独でとても辛いことであるのは容易に想像できる。また上司や知人に話をしても理解されない、あるいは誤解されることすらあるだろう。それでも種をまくように自身を磨き、社内外で同志と結びつき切磋琢磨していけば、いづれ私たちは仕事を通じて大きな達成感を味わう事ができることができるのではないか。そんなことを感じる一冊。